相続の際、債務整理を試みた後に相続放棄できるか(結論:債務整理を試みたことが単純承認となり放棄が成立しない可能性がある)

相続の際に、被相続人に財産はあるが返済が必要な借り入れ等もあり、借り入れを金融機関に少なくしてもらって(一種の債務整理)多少でも財産を相続できればそのまま相続し、借り入れが減らずに返済義務を負うような自体になれば相続放棄するようなことは可能なのでしょうか。

このような場合、債務整理が単純承認事由にあたるか、すなわち民法921条1号の「処分」に債務整理が含まれるかということになりますが、新注釈民法(19)相続(1)543ページ以下だと「処分」の解説は主に債権側のことしか書いていません。

ただ「法律用語としての「処分」は、例えば相続財産の売却等の財産の現状や性質を変化させる行為をいう。……本号の適用によって単純承認の効果を発生させるのであるから、それを正当化するためには、それ相応の理由が要求されるべきである。ゆえに、本号が適用されるためには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、あるいは少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要する。」とされています。

債務整理も財産の現状や性質を変化させる行為であり、債務整理をするということは支払意思があることの証左ですから、「処分」にあたると思われます。

なお、被相続人が賃借人で相続人が賃借権確認訴訟を提起・追行した事例では処分性が肯定されています(東京高判平元・3・27高民集42巻1号74頁)。

同条3号では、民法921条3号にいう相続財産には相続償務も含まれ、限定承認をした相続人が消極財産を悪意で財産目録に記載しなかたときも単純承認したとみなされるとされた事例(最判昭61・3・20民集40・2・450、判時1198・106)があり(相続における承認・放棄の実務-Q&Aと事例183ページ以下)、債務につき相続財産に含まれるということは1号も同様かと思われます。

この事例は限定承認後の単純承認ですが、放棄前の1号でも同様に考えられる可能性は高いと思われます。

では債務整理した後に「相続放棄」申述ができないかというと、申述自体は可能です。申述時に家裁が単純承認事由があったかを審査することはしていないからです。

そして債権者から訴訟提起され際に、債権者からの債務相続に基づく相続放棄が抗弁となり、債権者は単純承認がされていたことを再抗弁として主張することになります。

債務整理をいったんしていたら、債権者から訴訟提起等される可能性はかなり高いといわざるをえません。

放棄するなら債務整理しない、債務整理するなら相続する(債務整理をする場合は放棄できない)前提で方向性を定めるべきでしょう。