認知症や病気,事故により判断能力が低下してしまった場合,金銭に関することを本人に代わって行うことを定める制度があります。
成年後見制度といいますが,裁判所に親族などが申立をして,本人に代わってきちんと財産を管理できる人を選んでもらい,選ばれた人が本人の財産を管理することとなります。
ここまでの説明でわかるように,成年後見制度は財産がそれなりにある人が,判断能力が落ちてしまった場合を前提としたものです。
しかし,場合によっては本人に財産がなく,返さなければならないお金があるのに,何らかの理由で判断能力が低下してしまうことが考えられます。
このような場合,どこにどれくらい返さなければならないのか,現状がどうなっているのか,実はなかなか知る機会がありません。
なぜかというと,役所や金融機関は,個人情報の問題ということで家族であってもこれらの事情をきちんと説明してくれない,という実情があるためです。
この場合,成年後見人を裁判所に選任してもらい,選ばれた後見人が本人の現状について調査する方法が考えられます。
後見人は,本人の代理として裁判所に選ばれた人間ですから,金融機関などもきちんと対応していただけます。
では,本人の判断能力が低下してしまって,収入が期待できなくなってしまったけれども,返すべきお金があるとき,後見人はどうすればよいのでしょうか。
本人の判断能力がしっかりしていれば,自己破産することが考えられます。
では,後見人が破産申立をできるのでしょうか。
この点は家庭裁判所でもよくわからないということでした。
調べたところ,はっきり書籍に書いてあるものはないようですが,本人が仮に相続をする場合,借金を相続するようであれば,相続放棄をして本人が損にならないよう(不利益が生じないよう)にすることができるとされています(家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務 65頁)。
つまり,「財産に関するすべての法律行為」を行うという後見人の役割の中には,プラスの財産を管理するだけでなく,マイナスの財産を管理する役割も含まれていると考えられているということです。
このような後見人の役割からすれば,自己破産の申立をして,きちんと法的な手続きをとることで,本人に不利益がこれ以上及ばないようにするということも可能ではないかと思われます。
成年後見制度は,財産がある人だけでなく,そうではない人も利用する割合がこれから増えていくことが予想されます。これからはこのような問題が数多く起きるのかもしれません。