脅迫罪は,人に対して害悪の告知をすることが構成要件として定められています。
(刑法第二百二十二条一項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。)
また,恐喝罪の「恐喝」とは,脅迫又は暴行を手段として人を畏怖させることであるとさけています。
(刑法第二百四十九条一項 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。)
脅迫罪の構成要件であり恐喝罪の手段である,「害悪の告知」は,違法な行為でなけれならないのでしょうか。
たとえば,Aさんが倉庫に入って他人の物を窃取しているところを見たBさんが,Aさんに対して「お前が物を盗んでいるところを見たぞ。警察に通報してやる。されたくなかったら,10万円払え。」と申し向けた場合に,「害悪の告知」となるのか,恐喝罪に該当するのかが問題となります。
判例は,加害の内容が告訴する意思がないのに告訴すると通知することでもよいとしています(大判大正3.12.1)。
これは,加害が犯罪であることを要せず,また違法な行為であることを要しないとの前提を取っているためです。
すなわち,恐喝罪の害悪の告知そのものが,違法性を帯びている必要はありません。
前述した場合の事例でも,「警察に通報する」こと自体は違法ではありませんが,害悪の告知足りうるとして恐喝罪の成立が認められています(最判昭和29.4.6,大コンメンタール刑法第二版第13巻269ページ)。
恐喝罪は財産犯で,財物を喝取することに違法性があるので,その手段である「害悪の告知」が違法でなくても犯罪の成立には影響がないと考えているものと思われます。