丁字路の右折車と左折車の交通事故における過失割合

丁字路の交差点で四輪車同士の事故が起きた場合,判例タイムズNo38では図【139】~【146】で過失割合が定められています。

しかし,判例タイムズNo38に記載がない事故態様もあります。

具体的には,以下のような場合です。

f:id:toridelaw:20200728193202j:plain

取手簡易裁判所の横の道路が丁字路なので,その部分をGoogleMapから引用しました。矢印は私が書き加えたものです。実際の事故の有無とは関係ありません。

まず,このような事故態様がなぜ判例タイムズNo38に記載されていないかについて説明します。

上記写真を見ればわかるように,車線内を通行している限り,車両同士が交わることはありません。このように,交わる点がないような事故態様については典型的な事故態様ではないため,判例タイムズNo38には図示記載がないのです。

しかし実際にはこのような状況で事故が発生することもあります。

このように,丁字路で右折車と左折車が衝突した場合,過失割合はどうなるのでしょうか。

 先ほど説明したとおり,車線内を通行している限り,車両同士が交わることはありません。つまり左側通行を双方車両が守っている限り,車両同士が交わることはないため,交通事故にはなりません。

しかし,この状態で交通事故が起こったということは,①片方の車両が左側通行を守らずに走行していた,②双方の車両が左側通行を守っていなかった,いずれかの場合ということになります。

①の場合,片方の車両が左側通行を守らずに走行してきたということになります。中央線がある場合の道路でセンターオーバーした車両とそうでない車両の過失割合は,判例タイムズNo38【150】に記載があり,基本過失割合はセンターオーバーした車両が100%とされています。なお基本過失割合に修正がされる可能性もあります。

②の場合は,双方が左側通行を守らずに走行していたということになりますから,どの地点から左側通行を守っていなかったか,その左側通行違反の度合いがどのぐらいかという違反の態様,交差点に信号機や一時停止線があるか,交差点の視認状況はどのようなものか等を総合的に考慮して,過失割合が定まることになるでしょう。

①の類型として,奈良地方裁判所昭和58年12月27日判決で,過失割合を80:20としているものがあります(ただしセンターラインの有無は不明確)。

事案としては,信号のない丁字路を南から進入し左折しようとした原告車(制限速度30kmのところを40kmで走行し,見通しが良くない交差点を徐行もせずに左折しようとした)と,西から進入してきて道路右側を通行しそのまま右折しようとした被告車の事故でした。

この事案では被告に主な過失があると判断されましたが,原告にも過失を認め,結論としては右側通行をしていた被告80,原告20の過失割合が判示されています。

このような判例タイムズNo38には掲載されておらず典型的ではない交通事故が数多くあります。保険会社との交渉を有利に進め,裁判において裁判官に適切な心証を抱いてもらうためには,交通事故をよく理解している弁護士に依頼することが必要と思われます。