車両の任意保険の特約として,「他車運転特約」が附帯されているときがあります。
「他車運転特約」とは,主契約(任意保険の対象車両)には含まれていない他人の車両を運転していたときに発生させてしまった事故に対して,運転していた運転者の保険から賠償を行う特約となります。
では,他車運転特約が附帯されていれば,どんな場合でも他人の車両を借りて運転していたときに発生させてしまった事故の賠償金の支払が保険から行われるのでしょうか。
保険約款には他車運転特約が除外される場合が規定されていますが,その判断が微妙なときがあります。
この点,他車運転特約の適用が問題となった事案で,名古屋高等裁判所平成15年5月15日判決は以下のように判示をしています。
「他車運転危険担保特約の趣旨は,被保険自動車を運転する被保険者が,たまたまこれに代えて他の自動車を運転した場合,その使用が,被保険自動車の使用と同一視し得るようなもので,事故発生の危険性が被保険自動車について想定された危険性の範囲内にとどまるものと評価される場合には,被保険自動車についての保険料でその危険をまかなう経済的合理性が認められることから,その限度で,他の自動車の使用による危険をも担保しようとするものであると解される。」
他車運転特約は車両保険の主契約と比べて保険料も低額ですが,これは契約者が常に使用しておらず一時的な使用であるとを想定して事故が起きる確率等を算定し,主契約において予測される危険性に付随して設定された保険契約であることに起因するものです。
つまり,車両保険の主契約は保険契約対象車両を契約者が常に使用していることを前提として事故が起きる確率等を算定した上で保険料等を設定しているものです。
だとすれば,他車運転特約により保険料支払がなされる範囲は,契約者が車両を常に使用しておらず一時的な使用である場合に限られることになります。
すなわち,自分のものではない運転していた車両が「常時使用する自動車」にあたるとすれば,他車運転特約の適用がないこととなります。そのように「常時使用する自動車」であれば,自分の車両と同様に必要な保険料を支払って当該車両を主契約とする任意保険契約を締結しておく必要があるということです。
前記名古屋高裁判決は,「常時使用する自動車」につき以下のように判示しています。
「したがって,被保険自動車以外の自動車が,他車運転危険担保特約における「他の自動車」から除外されることとなる「常時使用する自動車」に該当するかどうかは,当該自動車の使用期間,使用目的,使用頻度,使用についての裁量権の有無等に照らし,当該自動車の使用が,被保険自動車の使用について予測される危険の範囲を逸脱したものと評価されるものか否かによって判断すべきものである。」
自己所有車両が車検や家族の使用でたまたま使えず,一日だけ友人から友人車両を借りたときに事故を起こしてしまったのであれば他車運転特約の適用があると言えるでしょう。
しかし,友人から通勤のため長期借り受けている場合や,日常的に借り受けた車両を使用している場合には,他車運転特約の適用がないという判断も十分ありえます。
人身事故に限らず,物損事故でも損害額は多額になります。他人の車両を使う場合には,任意保険の関係についても気をつけないと,思いも寄らない高額の賠償責任を負うことになりかねません。