だいぶ時間が開いてしまいましたが,また少しずつ記事を書いていこうと思います。
さて,失火責任法という法律があります。
この法律により,失火の際には失火を発生させた者に重過失がないと,失火によって被害を被った被害者は失火を発生させた者に責任を問うことができないこととなります。
では,賃貸借契約の賃借人や,使用貸借契約の使用借人が失火によって賃貸物を滅失させてしまった場合にも,失火責任法の適用があるのでしょうか。
もし失火責任法の適用があるとすれば,賃貸借契約の賃借人や,使用貸借契約の使用借人は重過失がない限り滅失の責任を負わないこととなります。
この点,大審院判決(明治45.3.23)および最高裁判決(昭和30.3.25)のいずれについても,賃貸借契約には失火責任法が適用されないと判示しています。
失火責任法は民法709条の不法行為責任の特則として,重過失によって失火を生じさせた者に責任を限って,不法行為責任を制限した法律です。
賃貸借契約によって当事者間には契約責任が発生しており,失火責任法は契約責任についてまで制限する法律ではないことが理由です(失火責任の法理と判例)。
では,賃貸借契約では失火責任法の適用がないとして,使用貸借契約にも失火責任法の適用はないと考えて良いのでしょうか。
まず,賃貸借契約も使用貸借契約も,当事者間に契約責任が発生することは同様です。
また,賃貸借契約には善管注意義務があり失火によって賃貸物が滅失した場合には善管注意義務に基づき賃借人が賠償責任を負うものです。そして使用貸借契約においても賃貸借契約と同様に善管注意義務が使用借人について認められています(民法400条,新版注釈民法(15))。
このように,契約責任であることおよび善管注意義務があることから,使用貸借契約についても賃貸借契約と同様に,失火責任法の適用はないと考えられます。
そのため,賃借人または使用借人の失火によって契約の目的物が滅失した場合は,いずれの場合でも賠償責任を負わなければなりません。
そしてこの賠償責任を賃借人または使用借人が免れるためには,賃借人または使用借人が不可抗力によって滅失したことを立証する必要があります(失火責任の法理と判例)。